このたった一瞬の出来事だけで、わたしは…千隼くんに触れることすらできないの…?



「そういうことだよ、咲姫」


後ろから声がして振り返ると、乱れた制服を整える二階堂さんが立っていた。


「行けよ、咲姫。もう俺に関わるな」

「待って、千隼くん…!わたし――」

「行けっつってんだろ!俺も、ようやく慧さんの頼みから解放されて、清々してんだよっ!」


――その言葉が、わたしの胸に突き刺さる。



カオルくんは、千隼くんはわたしのことが好きだと言ってくれた。

だから、お父さんの頼みで仕方なくではなく、好きだからこそ守りたいと。


わたしもそう思いたかった。


――だけど。


やっぱり千隼くんは、わたしのことなんてなんとも思っていなかった。

むしろ、面倒な頼みをされて、お荷物くらいにしか思っていなかったんだ…。