「そうじゃなくて…。だれかに頼って優しくされると、こんなにもうれしいものかと思ったら……ついね」


二階堂さんが見せた涙は、どこかが痛いとか苦しいという涙ではなく――。

うれし涙だった。



「…だけど、おそらく。弱っている自分をこうしてさらけ出せるのは…。相手が楡野さんだからだと思う」

「わたし…ですか?」

「ああ。緒方が惚れるのにも、納得がいくよ」


…惚れるだなんて。

ただ、彼氏の“フリ”をしてくれているだけなのに。


すると、わたしの手を…二階堂さんがそっと握った。


「キミを独り占めしたくなる緒方の気持ち、今ならすごくわかる」


まっすぐにわたしを見つめる、二階堂さんの瞳。

その瞳の中には、目を丸くするわたしの姿が映っていた。


「キミのお父さんの頼みで、緒方がそばにいることはわかった。…でもその役目って、緒方じゃないといけないのか?」