それらを乗り越えてきたからこそ、今の慧流座があって、千隼くんが総長でいるんだろうけど…。



「ちょっと…こわい」


千隼くんの胸の傷を見て、初めて恐怖を覚えた。

これ以上の傷を…、千隼くんが負うかもしれないと想像すると。


「千隼くんが危険な目にあうだなんて…。そんなの…イヤだ」


この傷を負ったときの千隼くんのことを考えたら、思わず目の奥が熱くなった。


自然と、体が震える…。


そんなわたしの肩を、千隼くんの大きな手がそっと包み込んだ。


「…咲姫、聞いて?」


涙が溜まった目で、千隼くんを見上げる。


「これまでは、慧流座の名前を守るために、売られた喧嘩はすべて買ってきた。だから、ケガだって日常茶飯事。むしろ、それが勲章みたいなものだった」


さっき見た背中にも、細かな古傷があるとは思っていた。