翌朝、サバから借りたワゴン車で、ラブ達はララの兄がいる病院へ向かった。

100キロほど離れた町にある小さな病院。



「お兄ちゃん!」

病室へ入るなり、ララは兄のもとへと駆け寄った。

病室と言っても、仮設のプレハブと言ったところで、18人がいた。

貧しい人達を受け入れているだけでも、立派な院長である。

ラブの突然の訪問に、病院内は大慌て。


「ハ~イ、ロブ。元気そうじゃん。皆を連れて来たよ。ララはとっても頑張ってるよ~」

ロブは、まさかラブに会えるとは、思ってもいなかった。

話したいことがたくさんあったが、ララがその隙を与えなかった。


「今日はね、皆でランチパーティするのよ!おいしいもの食べて早く元気になってね」

他の患者達も、ラブに釘付けであった。
看護婦にまでもサインをねだられる始末。

ラブは皆の手を握り、優しく声を掛けて行った。

特殊能力。

彼女は触れることで、その人の容態を、ほぼ感知することができるのである。

ほとんどの患者は大きな問題はなかった。

ロブを除いては…。

ララがまだ喋り続けているのを確認して、ラブは医者の元へ行き、暫くカルテや診察結果を眺めていた。


「心筋に問題があります。手術をすれば助かるかもしれませんが、莫大な費用がかかります。PEACEからの援助はありますが、それで助けられる患者は大勢いるのです。彼の為に大勢の命を犠牲にはできない。残念です」

事情はよく分かっていた。
もっともな判断ではあった。

が、ラブは厳しい目で医師に告げた。

「ドクター、私たちは、命を救う使命を選んだ者。決して、その命を天秤にかけてはいけない。今救えるかも知れない命を、絶対に諦めちゃいけない❗️」

「無理だ!。費用はおよそ100万ドル。人口臓器もこの国にはないし、リスクの高い手術を、引き受ける医師なんていないんだ❗️」

「ダンッ❗️」
歯がゆさにテーブルを叩く医師。

「ガッシャーン!」

入り口で聞いていたララが、運んで来たランチを床に落とした。

「ララ⁉️」

泣きながら走り去るララに、ラブの声は届かなかった。



車が家に着くまで、ララは涙を流し続け、一度も口を開かなかった。

いつも、『なぜ笑顔でいられるの?』と、聞きたくなるほど、どんなに苦しくても泣かなかったララ。

その涙を、ラブは初めて見た。