「トーイ様、第1空隊パイロットのロビンであります。ボスニアまでお供します。会えて光栄であります」

20代中頃の真面目そうな青年に、ラブは微笑んだ。


「ラブでいいよ。お正月の夜にごめんなさいね。アボット隊長は怒って無かったかな…」

怒るといつも、自慢の髭をピクピクさせる隊長の顔が想い浮かんだ。


「いえ、髭は…笑っていませんでしたので」

『ピクピク』のことを、空軍では「髭が笑う」と言っている。


「そっかぁ、ハハ。ロビン、ボスニアへは私一人で行きます。個人的なことで、貴方を危険に巻き込む訳にはいかないので」

「トーイ…いえ、ラブ…様の為なら命は惜しくないです」

「アハハ。「様」を付けるんじゃ、あんまり変わんないじゃん。それより、貴方の一番大切なものは、これでしょ!」

コックピットに乗り込んだ彼女は、フロントボックスに挟んであった、赤ん坊の写真を手に取り、彼に渡した。

「あっ💦、失礼しました!先月生まれたばかりで…。しかし、それとこれとは話が違います。それに新型機の操縦は…」

慌てる彼を楽しみながらも、ラブはメインスイッチを入れ、両手でそっと機体に触れて目を閉じた。

ロビンが驚く目の前で、ステルスのメインコンピュータが目まぐるしく動き始めていた。

特殊能力。

彼女は、マシンやコンピュータとコンタクトすることで、あらゆる情報をその頭脳に入力することができた。

人間離れした動体視力や瞬発力と同じく、これも多彩な特殊能力の一つである。


「ロビン、Thank You! ちょっとこれ借りるね~」

この軽い乗りはここまで。

ラブは目を細め、奥歯をグッとかみ締めた。

ステルスが、真夜中の滑走路をゆっくり、まるで亡霊の様に進んで行く。

そしてその2分後、ボスニアへ続く闇の空へ消えて行った。