鬼島が穏やかに話し始める。


「私が関東を統一できたのも、こうして生きているのも、そいつのおかげと言っても過言ではない」

鬼島の父親は、仁義・礼儀を重んじる正統派であり、縄張り内に生きる商売人の大きな味方であった。

が、他愛もない争いに巻き込まれた末、命を落とした。

その後、父を心から愛していた母は、その悲しみ故に、自ら命を絶ったのである。

鬼島の関東統一は、そんなムダな殺し合いのない社会を築くためであった。

その結果、当時関東最大であり、親の仇でもある組織と抗争を余儀なくされた。

「話に伝え聞く、鬼島伝説とやらですな」

「いや・・・とんでもない」

鬼島は最後に、組織へ和解を申し出たのであった。



~4年前~

組の事務所を出る鬼島を、組員たちは止めた。

「心配すんな。これは殴りこみじゃねぇ。ただの話し合いだ」

「絶対に罠に決まってますよ組長!一人で行かせるわけにはいかないです。死ぬ時は我々もお供します」

罠は百も承知。

「バカやろうが!お前らがいなくなっちまったら、この街の人たちを誰が守るっ❗️」

注目を浴びている抗争で、自分が死ねば、世論が動く。

そうなれば、組織としても、簡単に大きな動きはとれなくなる。

それが、鬼島の読みと賭けであった。


「いいか、俺たちは争っちゃあいけねぇんだ。でなきゃ奴らと同じになっちまう。俺はもう、誰も死なせたくねぇんだ。俺を信じてくれ。頼む・・・」

頭を下げたサングラスの淵から、悔しさの涙が床に散った。


もう、誰も言葉を発しなかった。

「いいか、絶対にここから動くな!俺は、お前たちを信じるぜ。必ず・・・帰ってくる」

そう言って、事務所を後にした。