~大阪~

世界が朝から大騒ぎしている中、箕面《みのお》にある豪邸は、ものものしい雰囲気に包まれていた。

関西ヤクザ界を統一した、飛鳥組の本部である。


「たいしたものだ。まるで要塞なみだな。飛鳥組長」

手打ちの儀が無事に終わり、くつろいだ面持ちの鬼島。

「いやいや、ムダな体面繕いや、お恥ずかしい」

黒一色の鬼島とは対照的に、真っ白なスーツ。

飛鳥組組長、飛鳥貞治《あすか さだはる》、55歳。

「わてももう年ですわ。この頃は、駆け出しの頃の小さな組が懐かしゅうてな。この広い宅がえらく寂しく思えるんですわ」

「若頭に代を譲るとのうわさも耳にしましたが・・・」

「ハっハっハ。しょうもないせがれでんがな。チャラチャラと大陸へでかけては、何をやっておるやら」

飛鳥組は、中国裏社会とつながり、商売のため、一人息子を頻繁に派遣していたのである。

「まぁ、まんざらではないがな。ところで、鬼島はん。まだ戦争も始めておらんのに、なぜ突然手打ちなどと?」

鬼島は、断固として中国裏社会の誘いを断っていた。

そのため、飛鳥組には中国から、東京制覇の要求がきていたのであった。

「ああ、実は私の知り合いに、とてつもなく聞こえる耳と、遠くまで見える目を持つ者がいましてね」

鬼島の危険を察知した、ラブの情報であった。

「なるほど・・・。業界一の慎重派と聞く鬼島はんを、簡単に信じさせる人物とは、ぜひとも会ってみたいもんですな。ハハハ」

飛鳥の満面の笑顔に、とまどう鬼島。

「しかし、自分で言うのもなんだが、よくワテを信用する気になれましたな?」

「実は…組長。私には、大きな借りを返さなきゃならない人がいましてね・・・」