「ラブ様、お疲れの様ですが、間もなく空港へ着きます」

《《運転手》》のマザーシステム、AI(アイ)が告げた。

移動中の車で、僅か30分の仮眠を取ったラブ。

「アイ、ボスニア空域の確保はできた?」

「はい。PEACE(ピース)が手を回してくれた様です。ですが、現地は内戦の真っ只中です。今回も政府軍の裏には、HEAVENが関わっているとの情報もあります」

PEACEは、国連直下の組織であり、世界中で平和活動を展開している。

彼女はこの活動を広く支援しており、中心的な存在でもあった。


ラブが話しているアイは、彼女をサポートし、世界中を監視するマザーコンピュータであり、お台場にそびえ立つ、地上70階建のTERRAコーポレーションに《《いる》》。

アイは彼女の頭脳とも繋がっており、ラブはアイを通じて、世界中のあらゆるデータを見ることができた。


「アイ、明日の予定は…」

「8時の取材は来週に延期、鷲崎《わしざき》首相から相談あった9時のアポも、丁重に延期させて頂きました。11時の映画プレミアは欠席でも良いでしょう。鬼島《きじま》組長との昼食会は、大変残念がっておられました。午後の新曲用ジャケット撮影は中止。ディオールの新作打ち合わせには、メイを行かせます。映画「スピードレーサ3」のカーアクションですが、T2《ティーツー》に頼みました」

「メイはディオール好きだからラッキーね。T2にはまたブツブツ言われちゃうな」

二人の顔が思い浮かんだ。

「ティークから連絡は?」

「はい。アラスカで見つかった謎の物体は、この星の物ではない様です。15名の行方不明者が出ており、NASAが調査中です。EARTHでは、ベルベット長官の命で、レベル5の警戒体制を取りました」


長官のベルベット・スタンリィは、トーイ・ラブの正体を知る、数少ない人物の一人である。


そして、T2とティークは、ラブを守り、両腕となって動く最強の戦士であった。


アイがブレーキをかける。

車の目の前に、アメリカ最新鋭機、ステルスの黒い機体があった。