『今日私は・・・あいつらなんか死んでしまえばいいと思ったの。どうしても許せないと思ったの。このままじゃ、いつか彼女たちを傷つけてしまうかも知れない・・・。私は負けたの、お母さん。悔しいけど、ごめんなさい。私・・・これ以上は耐えられない・・・。』

(なんで・・・なんでヒトミみたいなイイ人が、こんなに苦しまなきゃいけないんだろう。人間って・・・わからないよ・・・。)

私は、もう何を信じていいのかわからなくなっていました。

ただ、彼女が可哀想で、悔しくて、悲しくてたまりませんでした。

その時、彼女の膝の上にいた私の顔に、冷たいものが落ちてきたのです。

(また・・・ヒトミ、そんなに泣かないで・・・・・・あれ?)

ヒゲに垂れてきた雫を舐めた私は、それが涙とは違うことに気付きました。

(これはっ!!ヒトミっ!!)

慌てて膝から飛び降り、見上げたヒトミの手首から、真っ赤な血が流れ落ちていたのです。

『カズ・・・。ごめんね。お前を独りぼっちにしちゃうね。約束したのに、許してね。カズ・・・』

(ダメだ!!ヒトミ!死んじゃだめだ!)

ゆっくりと畳に崩れていくヒトミに、私は必死で叫びました。

『カズ・・・さようなら。お母さん・・・お父さん・・・。カズ・・・キ君。』

(!?)

私の名前の理由が、その時分かりました。

(そうか!そうだったんだ!・・・ヒトミ、待ってて!!)

私は閉じられた襖に飛びつき、重たい襖を必死で引っかきました。

爪がいくつか飛んで、血が出てきましたが、その時の私は、痛みなんて感じませんでした。

(早くしないと、ヒトミが死んじゃう!)

やっとのことで、襖を開け、いつも開けてある、お風呂場の小窓の格子から、外へ出ました。