それからの毎日は、私にとって一番幸せな時だったと思います。

学校が終わると、いつもヒトミは走って帰ってきました。

『ただいま~!カズ。』

私は、彼女の走る足音が近づくのを毎日待ちわびていました。

そうして、ネコの私に、今日学校であった楽しい話を、たくさん話してくれるのです。


お母さんも、私がこの家にやってきてから、ヒトミが元気になったことを喜んでいました。

ヒトミの留守中、私が窓際の机の上で伸びて寝ていると、ドア越しに、

『カズ。あなたのおかげで、瞳が良く笑う様になってくれたわ。ありがとう。これからも娘をよろしくね。』

と声がしました。夢の中だったかもしれませんが・・・。



ヒトミには、どうやら好きな人がいる様子で、その人の話をする時の彼女の表情から、私には分かりました。

(ネコじゃ・・・かなわないか。)

少し妬けました。

その人は、この窓から見えるマンションの5階に住んでいました。

『スポーツもできて、かっこいいんだよ。カズ・・・なんてどう頑張っても彼には勝てないよ。』

(比べる方がどうかと・・・)

『小学校までは同じクラスで、時々家に来て、遊んだりもしたんだよ。』

嫉妬はするものの、想い出に浸る彼女の顔は幸せそうで、その顔を見ているだけで、私は満足でした。