(お腹空いたぁ・・・。)

すっかりノラが身についた私は、それでも何とか生き抜いていました。

話していませんでしたが、私はこれでも一応シャムの血を引いており、本当なら、かすかにベージュを浮かべた白い毛並みを光らせ、しなやかな足取りで歩くネコです。

でもその時の私は、痩せ細り、酷く汚れた体には、シャムっ気など程遠い状態でした。


小さな商店街をふらついていると、店頭に焼きたてのパンを並べた店がありました。

(美味しそう・・・。)

3日間、ほとんど食べていなかった私は、気が付いた時には、その一つをくわえていました。

『こらッ!!ノラ猫!』

店員が気付き、大きな声で怒鳴る。

慌てて台から飛び降りた私は、くわえたパンで前が見えなかったことと、弱った足腰のため、着地に失敗して転んでしまいました。

ネコも転びます。

そして、不覚にも、入り口にいた客に取り押さえられてしまったのです。

『このドロボウ猫め!』

「バンッ! バンッ!」

押さえつけられた私は、店員の持っていた雑誌で、殴られ、意識が危うくなりました。

その時です。

『やめてっ!! おじさんやめて!! お願いやめて!』

彼女は、必死で店員の腕にしがみついていました。

『な、なんだ?お前の飼い猫か?』

『そ・・・そうです。許して、おじさん。お金は払うから。お願いします。』

涙を浮かべた彼女を前に、大人がそれ以上続けることはできませんでした。

『分かった分かった。お金なんていいから、泣かないでくれ。』

『おじさん。ありがとう。』

(お嬢さん。ありがとう。)

『しかしお前、学校はどうしたんだ?』

(ヤバ!逃げるよ!!)

彼女の目が、そう言っていました。

「ダッ!!」

二人・・・いえ、一人と一匹は、懸命に走りました。

いっしょに走る彼女がいるだけで、何だか力が沸いてきたのです。

5分ほど走って、私たちは止まりました。誰も追ってはきていませんでした。