「渡そうと思ってたんだ。これ」

「ん?」

 柚は、響が差し出した物が何かわからず、首を傾げながら手を出した。そこに置かれたのは…

「えっ。鍵?」

「そう、うちの合鍵」

「…私が預かっていいの?」

「柚以外に渡す相手なんかいないだろう」

「それは…そうじゃないと困るけど…」

「いつでも、好きに入ってくれていい。泊まりに来てくれるのも歓迎だし、景色を眺めるだけでも構わない。柚が好きな時に来てくれ。平日は、なかなか一緒に過ごせなくて悪いな」

「そんな。響さんが忙しいことはわかってます。無理しないでくれたらそれで充分」

「柚…今すぐ抱きしめたい…」

「残念!ここ会社だよ」

「わかってる。彼女が可愛すぎて困る」

「もう〜響さん甘すぎ」

 距離を保ちながらも、まさか誰もこんな甘々な会話が交わされているとは思わないだろう。

 そこへ…

「椎名部長、お電話が」と男性社員が休憩室に飛び込んできた。急いでいるようだ。

「ああ。今行く」

 いつも通りのオンモードで慌ただしく行ってしまった。