「これはもういらない、これは持って行く……」
前くんが仕事に行った次の日から、私はこっそり荷造りを始めた。前くんから逃げるための荷造りだ。
私はSNSを使って海外の人と交流し、友達もたくさんできた。その中で一番親しいアメリカ人の友達に前くんのことを相談したところ、「アメリカで一緒に暮らさない?」と嬉しい誘いを貰ったのだ。
前くんにバレないよう準備を進め、観光ではなくアメリカで暮らすのだから就労ビザの申請をして、飛行機のチケットを取る。準備は思ったよりスムーズに進めることができた。
「じゃあ、行ってくるよ」
前くんから逃げる日の朝、いつも通り「行ってらっしゃい」と言って前くんを見送る。扉が閉まったのを確認してから、すぐに荷物を入れたキャリーケースを引っ張り出した。
前くん、そして家族に宛てた手紙をテーブルの上に置き、時計を見る。午後の便を予約したのだが、この家から一刻も早く立ち去りたい。なので、もう空港に行くことにした。

