日本から出られない！

「ただいま」

ニコニコとしながら家に入ってきた前くんに「おかえり」と返し、脱いだ上着を受け取る。

「今日のご飯は何？」

「今日はビーフシチューにしたよ。お肉、安かったの」

「やった、楽しみ！あとこれ、デザートに食べようか」

前くんに渡されたのは、有名なケーキ屋さんの箱。無職の私は決して入ることすらできないお店だ。お金は前くんから貰っているものの、人様のお金を贅沢になんて使えない。

「ねえ前くん、私、明日にハローワークにでも行こうかなって……」

「その必要はないって言ってるだろ」

怖いくらいに睨まれ、私は口を閉じる。さっきまでの穏やかな空気が嘘みたいに、緊張でピリついていた。

「そうだ、もう僕も仕事に慣れてきたし、そろそろこれを提出してもいいか？」

前くんがそう言ってテーブルの上に出したのは、「交際届け」と書かれた紙。警察官は、誰かと付き合うことになったら届け出を足さないといけないと聞いたことがある。誰と前くんが付き合おうと勝手だが、なんとその紙には私の名前があった。