この景色を、君と何度も見たかった。

【蒼 said】

復讐計画4日目〜11日目。

復讐まであと19日。

この1週間夢野さんとは話さなかった。

夢野さんと話さない代わりに郁磨との時間が増えた。

やはり幼なじみの郁磨は何でも話が合うし一緒にいて落ち着く。

「なぁ、蒼。夢野さんとは最近どうなの?」

あまりそのことには触れて欲しくはなかったが、郁磨だけには話そうと思った。

「喧嘩みたくなってから1度も話していない。」

この一言だけを郁磨には伝えた。

でも、郁磨の顔は心の底から心配してるようには見えなかった。

少しおかしいなとは思ったがあまり気に留めなかった。

すると郁磨がもう一度僕に質問をしてきた。

「夢野さんの事は本当に好きじゃないのか」

僕はとても不思議に思った。

どうして郁磨がここまで、

夢野さんの事を僕がどう思っているのか

を知りたがるのか気になった。

「なぜそこまで夢野さんのことを気にしているんだ?」

続けて僕はまたこう聞いた

「郁磨、夢野さんのことが好きなのか?」

郁磨はずっと黙っていた。

答えが全然返ってこなかった。

ずっと何かを考えている様子だった。

言葉をすごく選んでいるようだった。

僕は郁磨のことが全くわからなかった。

ここまで彼のことを分からなかったのは初めてだ。

何にそこまで悩んでいるのか、

僕に何か隠し事があるのか、

心当たりがあることを全部頭の中で思い返したが、何も見当たらなかった。

少し心当たりがあると言えば、

僕が初めて夢野さんと帰ると郁磨に行ったあの日、少し彼の様子がおかしかったことだけだ。

いつもなら優しく返事をしてくれる彼が少し冷たかった。

あれは気のせいではなかったのか。

考えれば考えるほど彼のことがわからなかった。

でも彼が何か答えを出そうとしているのはわかる。

だから僕は待っていた。

郁磨のペースで話して欲しかったから彼のことを急がそうとも思わなかった。

だんだん彼は顔を上げて一言こう言った。

それは僕にとって、とても衝撃的な内容だった。

どうしていいのかわからなかった。

「蒼、俺お前のこと幼なじみの親友じゃなくてもっと大切な存在だと思っている。

それは普通の人たちが普通に思う相手の気持ちではなくて…。

恋愛として好きというか…。

びっくりするような…。

……。


ごめん。


ただ

夢野さんと帰る

とお前が初めて言ったあの日、

夢野さんにお前のことを取られると思ってしまった。

そう考えるととても複雑だった。

だから素直になれずに少し冷たい態度をとってしまった。

お前がそれに気付いていたのかわからないけれど気づいていたのならごめん。

ずっと隠してきた気持ちだった。

ただもう嘘をつくのはやめようと思う。

俺は、蒼のことが好き。

ただもうこの気持ちを終わりたいから伝えることにする。

これからまた友達としてよろしく。

最後に1つだけ、夢野さんの事はほんとに何も思ってないのか?」

郁磨からのカミングアウトにも、すごく驚いた。

いつからだろうか。

こんな風に僕のことを思ってくれていたのはすごく嬉しかった。

だから彼がなぜ僕に謝るのかがわからなかった。

僕はそういう恋愛に対しての感情がわからないから郁磨からの告白にどう対応すればいいのかがわからない。

こんな時、夢野さんなら何て答えるのだろうか。

ふとそう思った。

答えは出なかった。

また仲直りができたとき聞けたらいいなと思った。

そして夢野さんのことを何とも思っていないのかという郁磨からの質問にはドキっとした。

なぜはっきりと、

なんとも無い

とすぐに答えられなかったのかが自分にもわからない。

ただきっぱりと否定することはできなかった。

何故だろうか。

僕は夢野さんのことが好きなのか。

そんな事はないと思う。

この気持ちはこの1週間夢野さんと話せていないと言う焦りから来るものだと思った。

気のせいだ…。

そう思った。

復讐が全て終わるまではこういう気持ちを抱いてはいけないと思っていた。

好きになる事はない

とも思っていた。

今の自分が夢野さんに対してどう思っているのか自分でもわからないが、夢野さんへの依存からくる気持ちなんだと僕は思った。

だから、この気持ちは気のせいだと思う。

ただそんなことを思っていると、

夢野さんに会いたくなった。

僕は、人に会いたいと思うような感情は別になかった。

けれど今ふと会いたいと思った。

シンプルだった。

相手は今僕のことをどう思っているのかわからない。

ただ今は彼女と話したい。

ただ会いたい。

ここまで誰かが僕の頭の中をいっぱいにする日が来るなんて思ってもみなかった。

だからどうすればいいのかもわからなかった。

でも、なぜか嬉しかった。

頭の中にふと浮かぶような人が出来たとただ嬉しかった。

少し普通に近づけたような気がした。

そう思いながら、郁磨に僕は返事をした

「気付けなくてごめん。

思っていることを言ってくれて本当にありがとう。

気持ちには答えられないけれど、郁磨が僕に対してそんな風に思ってくれていたと思うとすごく嬉しく思う。

そこまで大切にしてくれていたんだなと幸せな気持ちになった。

好きだと言ってくれている相手に優しくするのは、他人から見れば優しくないのかもしれないが、これからも郁磨とは今まで通り仲良くしたいと本当に思っている。

だからこれからもよろしく。

あと夢野さんの事は…。

わからない。

僕は恋愛に対しての感情が鈍くて、夢野さんに対してどう思っているのかがはっきりとわからない。

けど、1つ言える事は、夢野さんのことを友達としては信じていると言う事。

でも何故か今、

ふと会いたいと思った。

これは相手のことが恋愛として好きだとかそういうことではなくて、ただ話したいなと思ったのが夢野さんだった、それだけ。

でも、これが

恋愛としての好きなのか

それとも友達としての好きなのか

それともまた違う何かなのか

分かったときにはすぐに郁磨には言うよ。

だから郁磨も、本当のことを話してくれてありがとう。

友達として、

幼なじみの親友として

僕も郁磨のことが大事だから、これからも仲良くしていこう。

うまく伝わってないかもだけど、

とりあえず郁磨にはいつも感謝している。

ありがとう。」

郁磨に対してはそうしっかりと伝えることができた。

郁磨は、

「おお!こちらこそありがとうなぁ。

これからも仲良くしてな」

と元気に言った。

僕が言うのはおかしいかもしれないけど、本当は辛かったと思う。

けど優しい郁磨は僕が罪悪感を感じないようにわざと元気よく振る舞ったのだと思う。

僕は心の中でももう一度ありがとうと思った。

そしてこの日は終わった。

今日で夢野さんと話した最後の日から1週間が経つ。

会いたいなぁ、

話したいなぁ。

思ってるだけじゃ伝わらない。

LINEをしよう。

そしてなんて打とうかなと考えていた時に通知が鳴った。

夢野さんからだった。

「月城くん。ごめんね」

夢野さんはLINEの文面で僕に謝っていた。
そして

一緒に帰ろう

と言ってくれた。

だからすぐに僕は

僕もごめん

と謝りそして

一緒に帰ろう

また明日

と送った。

すると彼女から、

また明日

と返事が来た。

最近少し憂鬱だった学校が、また楽しみなものに変わった。

夢野さん1人にこんなに生活が左右されるとは思ってもみなかった。

不思議な感覚だったがそれでよかった。

明日は何を話そうかなぁと考えていた。

そして今日は寝ることにしようと思った。

早く明日の放課後になってほしい。

たくさん話をしてしっかりと謝ろう。

そしてまた復讐の計画の続きを練ろう。