この景色を、君と何度も見たかった。

【蒼 said】

「蒼! 早く帰ろう。」

郁磨が言ってきた。

「先に帰っといて、夢野さんと今日は帰る」

そう言った瞬間、郁磨は明らかに動揺した。

「なんで? 付き合ってんの?」

そう聞いてくる郁磨に

「違うよ。妹の事で色々話して仲良くなったから、一緒に帰ることになった」

そう言った僕に、郁磨は

「そうか、じゃあまた明日なぁ〜」

それ以上は何も聞かずに、そっとしておいてくれた。

本当に郁磨は優しい。

僕の触れてほしくないところを知っている。

だからこいつとずっと一緒にいてられる。

これからもお前と、変わらない
《この景色を見たい》と思うよ。

教室の人も少なくなってきた、夢野さんのところに行こう。

「帰ろう。」

僕はあっさり声をかけることが出来た。

夢野さんは、僕の目をずっと見ていた。

そして、何も言わず下を向いてしまった。

何を考えているのだろう。

ずっと下を向いている。

何かあったのか…?

さっきまで綾瀬さんと笑って居たのに。

少し待っても一向に返事をする雰囲気が無いので

「どうしたの?」

と聞いてみた。

彼女が今、

何を考えているのか

何をして欲しいのか

全くわからなかったからどうしたのと聞いた。

ようやく彼女は少しほほ笑みを浮かべて僕を見た。

彼女の目からは沢山の涙が溢れていた。

訳が分からなかった。

この一瞬で彼女に何があったのか。

想像すらできなかったが、彼女の目から流れる1粒1粒が透明ではなく少しくすんでいるように見えた。

光を反射せずに吸い込んでいくような彼女の涙はこれまでの辛い日々を写しているのだろう。

でもなんて声をかけていいのか分からない僕は、

「嫌だった?」

と聞いた。

意地悪な質問かもしれない。

それでも良かった。

彼女から、嫌じゃないよと返ってくること期待して待っていた。

彼女はまた少し微笑んで

「ありがとう」

と言った。

もう、君が分からないよ。

でも、その笑顔から少し希望が見えたよ。

今まで君の目の奥までは笑っていなかった。

けれど、今は少しだけ笑っているように見える。

これは泣いている君の涙の光でそう見えているのか。

そんなことを頭の中で考えていた僕に

「早く帰ろう。」

と彼女は言った。

「うん。」

と僕は返した。