この景色を、君と何度も見たかった。

【蒼 said】

「おはよう」

「おはよう。今日は早いのね」

「うん、もう行ってくるよ」

「ごめん、蒼。お弁当まだ作れてないから、今日は売店で買って〜」

「了解、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

今日は郁磨の事を気にせず1人での登校だ。

久しぶりだなぁ。と思いながら自転車を漕ぐ。

そして学校に着いた。

教室に入るとまだ誰も居なかった。

こんな日記を落とした彼女は焦ってると思う。

だから早く来て探すんじゃないかなと僕は思っていた。

感は外れたかなと思っていた時、
教室のドアが開いた。

目を向けるとやはり、夢野 はる だった。

何故か僕は気が早くなって

「おはよう」

と声をかけてしまった。

彼女は驚いていた。

少し止まった後、

「おはよう」

と返ってきた。

僕はすぐに

「昨日ノート落として帰ったよ。」

と言った。

彼女の顔は、真っ青だった。

少し手が震えているようにも見える。

そんなに見られたらダメな過去なのか?
と少し疑問に思った。

「中身、見た?」

1番聞かれて困る質問だ。

見てしまった事を後ろめたがったが、正直に言おうと思った。

「ごめん」

彼女は僕のこの一言で見られたことを悟った。

凄く歪んだ顔を見せた。

彼女が僕の顔を見てどう感じるかは分からないけれど、

多分いいものでは無い。

酷く暗い顔をしてたと思う。

ごめんだけでは伝わらない。

そう思って僕は

「夢野さん、見てしまったごめん。」

振り絞って出した言葉だった。

夢野さんの顔はさっきより暗くなった。

僕が見てしまったという現実をもう一度突きつけたからだろうか。

そして、

「キモかったでしょ、忘れて」

と言われた。

もう私の過去に触れないでと思っているようだった。

だけれど僕は

「痛かった。刺されたみたいに痛かった。」

と言った。

深く考えて、言った言葉ではなかったけど、

ただ、ページをめくることが重いくらい痛かった。

だからこの言葉が出てきたんだと思う。

でも、彼女は不思議そうに

「なんで痛いの?自分の事でもないのに」

と聞いてきた。

僕は 自分の過去の話や妹の事を話した。

自分の過去や、どうしようも無い葛藤、自分の気持ちを何となく話したが、

何となくでも自分の事を話せたのは郁磨以外では彼女だけだ。

普通、僕の過去を聞いたら、妹に同情してか泣くと思うんだ。

決めつけは良くないけれど女の子なら尚更。

けど彼女はまっすぐ話を聞いて泣くどころか

「私も痛かったよ、今の話」

と言ってきた。

この時思ったんだ。

彼女も心が死んでるんじゃないかって。

痛みは感じてもそれ以上のものを感じた風には思わなかった。

そして、Nという人について聞いた時、初めて彼女は動揺していた。

でも、目の中に少しだけハイライトが戻ってきたような、気がした。

一瞬だけだけど。

Y先生、悪女YU…。

もう、めちゃくちゃだと思った。

なんとも言えなくて、

「教えてくれてありがとう」

とだけ言った。

彼女は

「私の日記を見て何か変わったことはあった?」

と聞いてきた。

すごく困った。

でもふと思ったから

「変わりたい」

と言った。

これは、

負けばかりの人生を終わりたいという意味だ。

妹の事ばかりを考え、悲観する自分を変えたかった。

もっと強くなりたくて、この憎しみの塊のような感情を殺したかった。

変わりたい、、。 綺麗にまとめられているけれど、内心は殺したいに近かった。

殺したくて、消えたくて、楽になりたい。

こんな事を言えば、メンヘラだとか、ヤンデレだとか、ファッション性鬱だとか、言いたい放題されるだろう。

だから綺麗に変わりたいと言ったんだ。

この世界は匿名だけが唯一の自己発信の場だから、リアルでは自分を隠さなきゃ行けない。

それが今の僕達の首を締めている。

晒されるのが怖いから、隠す

炎上したくないから、隠す

否定されたくないから、隠す

ネットに引っ張られて本当の自分なんてどうでも良くなって美化された自分だけが肯定されてゆく。

こんな現実さえ、どうでもいい。

こんな僕の気持ち、彼女わかって居ないと思う。

けれど彼女の口から出た言葉に驚いた。

「一緒に変わろうよ」

彼女は穏やかな顔で僕にそう言った。

何故か僕は受け入れられた。

彼女が変わるきっかけになるかもしれないと思った。

何か、彼女には同じものを感じた。

僕は1人ではないと思った。

それからLINEを交換してこの日は終わった。

ここから新しい物語が始まる。

2人の結末があんなに残酷な物になるなんて考えても見なかった___。