この景色を、君と何度も見たかった。

【はる said】

今は朝の6時。

結局一睡も出来なかった。

すぐにベッドから出て制服に着替える。

顔も洗っていつもならしっかりメイクをするのだが、今日は最低限のことしかしなかった。

「お母さんおはよう」

「今日はすごい早くない?」

「今日は早めに学校へ行く!」

「はい、お弁当」

「ありがとう、行ってきます〜」

朝ごはんも食べずに家を出た。

学校へ着いた。

直ぐに教室まで走る。

お願い…ありますように。

ガラッ…勢いよく教室のドアを開けた。

…!!

目の前には月城くんが居た。

なんで…。

今日に限って最悪だ。

何故かこっちを見た月城くんは私に声をかけてきた。

「おはよう」

珍しい。

月城くんとはまともに話したことがなかった。

月城くんはいつも暁くんと二人でいるから女の子とも関わりがない。

少し驚きながらも

「おはよう」

とだけ返した。

「ねぇ、昨日ノート落として帰ったよ。」

と月城くんが言ってきた。

その瞬間、

見られたか

見られてないか

が気になって、気になって

仕方がなかった私は、

「中身、見た…?」

とすぐに聞いた。

「ごめん。」

とだけ言う月城くんの顔を忘れられない。

見てはいけないものを見たような顔で少し暗い目をしてた。

どれだけ綺麗な花や景色がその目に写っても反射をせず、吸い込んでいきそうな暗い目。

あぁ、バレてしまった。

絶望した。

雛璃にさえ、言っていなかったから。

「夢野さん、見てしまってごめん。」

月城くんは改めて謝ってきた。

やめて…謝らないで。

私、可哀想みたいじゃん。

「キモかったでしょ。忘れて」

素っ気なく返した私に彼は

「痛かった。刺されたみたいに痛かった。」

と言った。

予想外だった。

自分のことじゃ無いのになんで痛いのか分からなかった。

「なんで痛いの?自分の事でも無いのに」

軽く私は聞いた。

重い口を開けた月城くんの過去。

「僕には妹がいる。

すごくよく笑う子だった。

でも僕が中学校1年生の時、

初めて泣きながら帰ってきたんだ。

理由を聞くと学校でいじめられていると言ったんだ。

いつからか、と聞くと1年前からだと言った。

この日妹が泣いてかえってくるまで、僕や母さん、父さんは気づきもしなかった。

毎日、笑顔で「ただいま」と帰ってくる妹の学校生活がどれだけ辛かったか、苦しかったかを気づけなかった。

毎日、死ねと言われ仲間外れにされて、ありもしない噂をたてられている。

今まで仲良くしてくれていた友達も、仲良くしてくれなくなって、今は1人だと 妹は僕に言った。

主犯となっている女は

「いつも妹は笑っていて、幸せそうだから気に食わなくていじめている」

と言っているそうだ。

そんな事、許されるのかと僕は何度も思ったけれど、それが許される世界だった。

それから妹は、学校に行けなくなって、
部屋の中で毎日泣いている。

最近は涙も枯れて、声だけが出ている。

声をかけると、何かと戦っているように妹は

「来ないで、来ないで、やだやだ」

って叫ぶんだ。

あんなにも毎日笑顔でお兄ちゃんと呼んでくれていた妹はもう居なくて、触れることすら出来ない。

主犯格の女は中学でも新しいターゲットを見つけて誰かをいじめているだろう。

妹のことなんて忘れている。

いじめた子のこれからの事も、その家族の痛みも知らずに幸せそうな顔をしてるんだ。

そんな、相手を見ると、君の幸せそうな顔の方が余程憎いよと思ってしまう。

妹は生きているけど死んでいるみたいだ。

あの1年間、主犯格の女に心を殺された。

なのに世間や、学校は

まだ12歳の子がしてしまったことだ。

どうか許してやって欲しいと、

僕達に言った。

声も出なかったよ。

年齢が低いから、未成年だからと言って加害者を守る学校や、教師に。

守られるべきものが他にあるはずなのに。

僕はこの理不尽な出来事があってからの5年間ずっと苦しんできた。

僕だけが耐えて、苦しんでいると諦めていた。

その時、君の日記を見つけて、

あんなにいつも幸せそうな夢野さんの過去にも色々あることを知った。

そして少し妹の気持ちがわかった気がして、僕だけが苦しいことが間違えだったと思って痛かったんだ。」

彼の過去を初めて知った。

私もそれを聞いた今、凄く痛かった。

「私も痛かったよ、今の話。」

「そっか。」

彼は落ち着いてそう答えた。
そして私に聞いてきた

「ひとつ聞いてもいい?」

「何?」

「Nさんはなんでがっこうにこなくなったの?」

少し胸の奥が焼けたような感覚になった。

「Nは家庭環境が少し荒れていたり、色々なことがあったけれど多分Y先生と悪女YUのせいだと思う。」

「Y先生と悪女YU…?」

「そう。Y先生はNや親友の事を追い詰めた。

悪女YUはNからのお金を巻き上げたりしていた。

私のアリもしない噂を広めたりもされたし、幸せそうで嫌いと陰口を叩かれたこともあった。

少し妹さんの気持ちがわかる。

だから余計月城くんの話が痛かったのかもね。」

「そっか。教えてくれてありがとう」

「ねぇ、私の日記を見て変わったことはあった?」

「どういうこと?」

「心情とか色々。なんでもいいけど」

「あぁ、色々思ったことはあるよ」

「何?」

凄く彼は困った顔をしていた。

「変わりたいと思ったかな。」

少し考えて彼は私にこう言った。

「そっか。じゃあ一緒に変わろうよ」

自分でも何を言っているかわからなかった。

けど、1人では心細かった。

ただ、過去の自分を受け入れてくれる誰かを探していた。

そこでちょうどいいと思ったのが月城くんだった。

変わりたいってどういう風に?なぜ?

沢山考えたけれどその答えはまた聞きたいな。

「じゃあLINE教えてよ」

「うん。QRコードでいい?」

「うん。私のLINEの名前はそのままだからすぐ分かると思う」

「分かった。追加しとく」

今日はここで終わった。

私たちはもう既に狂っていたのかもしれない。