この景色を、君と何度も見たかった。



部屋に戻ってすぐ、日記を開けた。

人の物を勝手に見てしまった僕は悪趣味なんだろうか。

そんな事どうでも良かった。

1ページ目から読んでいく。


2017.04.14 《中学入学》
小学校から一緒だった親友とはクラスが離れたが、違う小学校の女の子2人組が声をかけてくれた。これから3人組になりそうだ。


2017.04.16
早速新しい友達と遊びに行った。
プリクラをとったりクレープを食べたり楽しかった。3人でも心地がいい。

2017.04.28
クラスでの立ち位置などだいたい決まってきた。何とか上位に居てられているのではないだろうか。 話せる友達も多いし、心強い2人がいる。よし、やっていける。 深く安心していた。


夢野はるの中学校の日記か。

沢山書いてある。

彼女は毎日書き続けているのだろう。

ページをめくる手が止まらない。

彼女の過去を、どんどん知るこの感覚。

何故か日記を進める度暗く、重くなってゆく。

軽いはずの1ページが凄く重い。


2017.09.02 《2学期開始》
あれ、仲良かった二人の間に亀裂が入っていく。私はどちらかの味方をしないといけないらしい。もう3人になることは無いのだ。

2017.09.05
もう今までの3人組は無くなった。
2人組になった。私は1人になった訳では無いからどうでもいい。と思った。


どんどん暗くなってゆく。

何故だろうか。

凄く、重い…。

ページをめくる事に僕の心に何かが刺さってゆく。



消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ。

あるページはこんな言葉で埋め尽くされている。

何故だろう。

毎日笑顔の彼女の裏に何が隠されているのだろうか。


2017.10.01
あれ、学校にNが来ない。
また風邪らしい。

2017.10.02
Nが来ない。
1日中連絡が取れなかった。


Nって誰だろう…。


2017.10.12
Nと遊ぶ約束をした。
Nは学校に来ていなかったが遊ぶ約束をすると会ってくれる。
もうすぐウォークラリーがある。一緒にリュックサックを買いに行った。
多分来てくれるだろう。確信が持てない私はずっと当日まで不安だった。


2017.10.15
今日は全校一斉に10キロの道のりを歩くウォークラリーの日。
やっとこの日が来た。
Nは来た。
ずっと不安だった私は安心した。

Nと楽しく歩いていると、男の先輩4人グループに声をかけられた。

その中の一人、R先輩とNは、インスタで何度か話した事があるみたいだ。
そして何故か一緒にゴールまで行くことになった。
話しやすくてとても面白かったし、何よりも優しい先輩たちだった。

その中の一人、R先輩のことをNは気になっているようだ。
これが本当なら私は応援したいと思う。

《Nが幸せになってくれるなら。》

と本当に思っていた。


2017.10.16
Nは学校に来た。

「R先輩と出逢えるかなぁ」

なんて言いながら楽しそうにしていた。

Nが学校に来てくれるなら、楽しいのなら、幸せならそれで良かった。


2017.10.17
今日もNは学校に来た。
でも、
担任の教師Y先生はNのことを馬鹿にした。
授業中の事だった。
「Nさんはまぁできないだろう。まぁいいよ、できない人に何言っても出来ないやろうし笑笑」
クラス中は笑っていた。Nも笑っていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

なんだろう。

Nという人とY先生。 彼女の過去の人達か。

僕はなんとも言えない気持ちになった。

もっと彼女のことを知りたいと思った。



2017.11...
親友が怒っていた。今にも泣きそうな顔をしていた。

私はNの事で精一杯でイライラしていたので「何?」と冷たく聞いた。

親友は
「朝一緒に登校してたのに何で」と怒った。

もうどうでもよかった私は
「Nと行きたいからもういい?」と突き放した言い方をした。

親友は
「もういい。そんなに自分のことが嫌いなら話しかけてくるな」と言ってどこかに行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


親友…?

友達のことを大切にしている彼女がこんな事をするのか?

よく分からない。
分からないから知りたかった。

どんどん重いページをめくる。


2017.12.01
部活が一緒だった親友と話す機会があった。
私は謝った。親友は許してくれた。


2018.01.07《3学期開始》
Nが来た。嬉しかった。

どうやらNというのは不登校気味の友達のことらしい…。
初めの方に書いてあった仲良し3人の1人みたいだ。

2018.02.01
3学期が始まって1ヶ月。
Nはほとんど学校に来た。
やっぱりNといる時間は楽しい。


2018.05.01
もうすぐ職場体験だ。

2018.05.03
職場体験のペアはNと2人になった。
何故かあまり嬉しくなかった。泣きたくなった。

2018.05.08
夜、職場体験の準備をNの分までしていた。
何気なくインスタを開けた。
Nがストーリーを上げていた。
他校の男の人達と楽しそうにパフェを食べている動画だった。時間はお昼だった。
私が学校に行っている間、Nは遊んでたみたいだ。

初めてNのことで泣いた。
死にたくなった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

僕の手が止まった。
次のページをめくることが怖かった。

彼女の過去を、知ってしまった…。

少し震える手を抑えながら読み進めた。


【いつから周りの人の目が怖くなったんだろう】

次のページはこんなことが書かれてあった。

日付も書いていない。

この次のページからまた日記が始めていた。


2018.07.01
もうすぐ夏休み、やっとだ。
早く、早く、、。1日過ぎて。


2018.07.03
いきなり目眩がした。
気づいたら倒れてた。低血圧だそうだ。
《起立性調節障害》 らしい。
朝起きるのがきつかったのはこれのせいらしい。


2018.07.04
学校を休んだ。とても楽だった。
なのに、一日中部屋にこもって泣いていた。


2018.07.05
今日も学校を休んだ。 何故か辛かった。
悪いことなど何もしていないのに罪悪感ばかりが残った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

彼女の過去が今に近づくに連れて暗くなってゆく。

読んでいる僕も苦しくなった。

学校に行けなくなった妹も部屋にこもって泣いていた。

その時、こんな風に思っていたのだろうか。

妹とこの日記を書いたはるもいつも笑顔だったことに気づいた。

僕は何も気づけやしない。

この日記を読むたびに心が抉られるような感覚になった。

もう読む気力も薄れてきた。

あと1ページだけ…。


2019.09.01
親友が突然学校に来なくなった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…。

ここで僕は日記を読むことをやめた。

痛かった。

息が出来なくなりそうだった。

いきなり海にでも沈められた感覚。

あぁ。

もうどうでもいいのかもしれない。

妹の詩波も、夢野はるの事も。

何か、糸が切れたような感覚だった。

これまで僕は沢山のものに苦しめられてきたと感じていた。

家に帰れば苦しそうに戦っている妹がいて、
僕はなんにも出来なくて。

もう5年間もこんな苦痛と向き合ってきた。

こんな地獄のような毎日を送っているのは僕だけだと思っていた。

だから諦められた。

蓋を開ければ、あんなに幸せそうなあの子も何かに苦しめられている。

あんなに幸せそうな女の子もこんな過去があることを知った今、僕は僕自身のことをすごく惨めな無力な人間だと思った。

変わりたい。

そう思った。