ずっと探していた人は

「中川くんがキャプテンになってから、前よりもずっと、練習厳しくなったんだ。
練習は好きだけど、それでも自分へご褒美を買わないと、やってられない……」

「中川くんは、練習の時だけ鬼になる」と鼻息荒く言う。

大橋くんが「鬼」っていうぐらいだから、相当厳しいんだろう。

「徹もね、この前、『中川は俺ら2年にも容赦ないんだぞ~』って言ってた。下級生からも陰で『鬼』って呼ばれてるんだって?」

「そうなの? 俺、それは知らなかった。けど本当に鬼になるよ」

練習の時だけ角が生えるんだ、って大真面目にいうもんだから、私はパフェを食べる手を止めて、笑ってしまった。

次々と出てくる中川くんの「鬼エピソード」を聞いて笑い続けていると、あっという間に時間は過ぎてしまい、空がオレンジ色に染まり始めていた。

「なんか俺ばっかり話してごめん」

そろそろ親が心配するだろうから帰ろうか、と大橋くんが切り出す。

「こんなに笑ったの久しぶりかも。ありがとうね」

「それならよかった。中川くんが鬼になってくれたおかげだ」

大橋くんが笑う。

「大橋くん」

立ち上がる大橋くんを引き留める。

「最後に、あれ乗りたい」

窓の向こうに見える、ショッピングセンターに併設されている観覧車を指さす。

今日はわがままを言ってばっかりで呆れられるかなと思ったけれど、大橋くんは嫌そうな顔一つせず、うなずいてくれた。