ずっと探していた人は

「こんなの当たるわけないじゃん!!」

最初に向かったのは、バッティングセンター。

何度か徹に連れられて来た時、徹は軽々とボールを遠くまで飛ばしていた。

あれなら私でも出来そう、私も飛ばせたら気持ちいいだろうな。

そんな甘い考えで打席に立ってみたけれど、バットにバールは全く当たらない。

一番遅い球速で設定しているのに、かすりもしない。

「もっと、短く持ってみて」

隣の打席から大橋くんがアドバイスをくれる。

そんな大橋くんは、私よりも20キロも早いスピードの球を、低めだけれどきれいに打ち返していた。

「どうしてそんなに上手なのよ」

少し拗ねる私に、大橋くんは笑った。

「一応、野球部だから」

「それなら」

マシーンの上に掲げられている、赤い枠を私は指さす。

「ホームラン枠に当てて、景品とってよ。私、あの大きいクマのぬいぐるみが欲しい」

私は、「ホームラン」という文字から、景品コーナーに置かれているクマのぬいぐるみに、指さす方向を変える。

「ホームラン…………」

私の言葉に大橋くんは、弱々しくつぶやいた。

「俺、ピッチャー……」

「あ、そっか……」

そういえば徹がこの前電話で言っていたな……。

三年生が引退してから、大橋くんたち投手陣は、練習のほとんどを、投球練習に割いているって。

野球部とはいえど、大橋くんは投手だから、さすがにホームラン枠までボールを飛ばすのは難しいよね。

近いうちに徹を連れてきて、徹に獲ってもらうか……と思い直してもう一度ボールに向きあったとき、場内にパッパカパーン!!!と明るい音が響き渡る。

「おめでとうございまーす!!」

店員さんがカウンターから叫ぶ。

何が起きたのか分からなくて何気なく隣を見ると、大橋くんの打席の上に掲げられている番号がキラキラ光っていた。

「え? 大橋くん?」

「うお、なんか打てた!!」

ホームランを打った本人も予想外だったようで、とても驚いている。

「うそ、すごいすごい!!」

その場でぴょんぴょん飛び跳ねた私に、大橋くんも、やった!と叫んだ。

「あ、ちょっと待ってて」

大橋くんはそう言い残すと、打席を離れた。

「え、待って」

1人にしないで、と声に出す間もなく、大橋くんの背中は遠くに離れていった。