ずっと探していた人は

泣き始めてから、どれぐらいの時間が経ったのだろう。

隣の校舎から聞こえるチャイムと同時に、私は顔を上げた。

「落ち着いた?」

大橋くんが気遣うように、私を見る。

「ごめん、ティッシュ、持ってなくて」

申し訳なさそうに言う大橋くんは、代わりに、と朝コンビニで買っていたペットボトルのお茶を差し出してくれた。

「未開封だから」

「うん」

遠慮なく口の中に水分を入れると、とてものどが渇いていることに気が付いた。

ごくごくと体内に水分を流し込む。

ジャスミンティーの爽やかな味が、身体に染み渡る。

「ありがとう」

ペットボトルの蓋を占めながら、大橋くんを見る。

「もう大丈夫?」

「うん…………」

今まで大泣きしていたの全部見られていたんだなと思うと、正直恥ずかしかった。

「大橋くん」

泣きすぎたせいで声がかすれる。コホンと咳をしてから、私は続けた。

「どうして、ここにいるってわかったの?」

大橋くんは、うーん、と少しうなってから、答えた。

「俺がもし滝川さんなら、ここに来ると思ったから、かな」

直感っていうか、なんていうか、と、うまく説明できずにもごもごと大橋くんが口ごもる。

大橋くんがかわいくて面白くて、私は笑った。

「そっか」

「うん」

私の笑顔にホッとしたのか、大橋くんも笑った。

「来てくれて、ありがとう。巻き込んでごめんね」

「ううん、俺が勝手に来ただけだ」

大橋くんはそう言ってくれたけど、やっぱり今回の件で、自分の周りにいる人たちを本当に振り回してしまっているな、と私は反省する。

「あー、泣いたな~!」

濡れたスカートを見て苦笑する。

こんな状態だったら教室にも戻れない。

「大橋くん、もう教室に戻ってくれて、大丈夫だよ」

大橋くんは驚いたようにこっちを見た。

「滝川さんも教室に帰る?」

「いや、今日はこのまま家に帰ろうかな……」

こんな状態じゃもっとみんなの注目を集めるだけだしね、スカートを指さしながら言うと、大橋くんは、そっかと納得した。

「じゃあ俺も今日はこのまま帰ろうかな」

嫌いな授業ばっかりだし、野球部の練習もないし。

付け加えられた言葉に、私は笑った。

「今日は大橋くんの苦手教科が集まっている日だもんね」

理科と数学と英語。

大橋くんの嫌いな教科のオンパレード。