映画を終えて外に出て、涼くんの腕から解放されたときは、正直ほっとした。

「はー、結構見応えあったね」

涼くんは誰の演技がどうとかこうとか語ってくれて、さすが見ているところが違うなと思う。

「やっぱり涼くんは、すごいね」

私は人の演技よりも、ストーリーの行方の方がずっと気になっていた。

「そろそろ帰ろうか」

すっかり日が落ちた道を、2人でゆっくり歩く。


「加恋、いつもありがとう」

デートだからと綺麗に巻いた私の髪の毛を、涼くんがそっと撫でる。

「どうしたの、改まって」

「ん? 幸せだなーって」

「そうだね」

大きな映画の撮影を終えた涼くんは、映画を撮る前よりも、ずっと穏やかに笑うようになった。

本人はあんまり自覚がないみたいだけど、映画の撮影直前に会った時は、正直かなりピリピリしてた。

「ここ最近は久しぶりにのんびりできたね?」

今日もだけど、ここ数日は、涼くんとの時間をしっかりとれて、本当に幸せだった。

会えないのはつらいけれど、その分会えた時は、本当に幸せだ。

この幸せがあるから、私は待ち続けることができる。

「うん」

涼くんが私の頭をなでる。

「また来週から大きい仕事が入って少しバタバタするけど、できるだけ連絡するから」

だから、待っててね、と涼くんが私の顔を覗き込む。

「加恋が褒めてくれるように、絶対に良い作品を作ってくるから」

来週から撮影ってことは、また会えない日が続くのかな。

涼くんの言葉に今まで感じていた幸せな気持ちが一気に曇りはじめる。

けれど仕方ない。仕事には、勝てないんだ。

涼くんの彼女でいるためには、待つしかないのだから。

「加恋、だいすきだよ」

いつもは安心を与えてくれる言葉。

けれどなぜか今日は、この言葉を聞いても、また距離ができるんじゃないかという不安が私を襲う。

「うん」

とりあえずうなずいては見たけれど、もしかしたら私の心は、これから起こる出来事から何か感じ取っていたのかもしれない。