「今日はありがとう」

すっかりあたりが暗くなった道を、私たちは並んで歩く。

「滝川さんも、辛い日だったのに」

「あー……そういえばそうだったね」

そう言えば今日、涼くんにドタキャンされたんだっけ。

そんなこともうすっかり忘れていた。

「次、滝川さんに何か辛いことがあった時は、側にいるから」

「ほんと? 嬉しいなあ」

それから私たちは、別れるまで無言だった。

2人とも何も話さず、ただ夜空の星を見ながら歩く。

けれど今はそんな空間が、とても居心地よかった。


「本当に、ありがとう」

分かれ道、もう一度丁寧にお礼を言ってくれた大橋くんに、首を振る。

「私の方こそ、話聞いてくれてありがとう。またアイス、食べようね」

そう言うと、冷たさを思い出したのか大橋くんはけらけら笑った。

「最初に食べたアイス、冷たかったね」

「うん、頭がキーンってなった」

また些細なことで笑いあう。

「それじゃ、また明日ね」

「うん、明日!」

手を振りながらお互い背を向ける。

明日も今日のような、心の底からの笑顔が見られるといいな。

「大橋くーん!!」

小さくなる背中に叫ぶと、大橋くんはびくっと肩を震わしながらこっちを向いた。

「グラウンドの真ん中に大橋くんが立つときは、応援に行かせてね!!」

ポジション争いに敗れ、うちひしがれていた君も、きっと明日からまた頑張るのだろう。

誰のためにとかじゃなくて、ただ自分がその場所に立つために、手を抜かず頑張るのだろう。

苦しんで、泣いて、大好きな野球を楽しめなくなってまでも、諦めずにポジションを奪いに行く。

そしていつか夢がかなったとき、君はグラウンドの中心で何を思うのだろう。

君にとって、どんな景色が広がるのだろう。

努力して夢を叶える大橋くんの姿をみてみたいと、ただ思った。


「うん! エースになるから! 絶対応援に来てね」


今日のお昼までとは違う力強い様子に、そんなに遠くない将来に、君の夢がかなうんじゃないかって思う。

ううん、きっと、かなうんだろうな。

今日あげた星の形のアイスが、少しでも大橋くんの夢を支えてくれることを私は祈った。