「由夢」

「ん?」

「これさ」

「うん」

そこまで言って、私は涙で声が詰まった。

どうして涙が出るのだろう。

悲しいわけじゃないのに。

むしろ、なんていうのだろう、この気持ちはなんて表現したらいいのだろう。

「由夢」

「うん」

「大橋くん、からだ…………」

そこまで言うと、由夢はふっと笑った。

「やっぱりね」

「どうして」

由夢にはどうしてわかったのだろう。

「一昨日のチョコレートのパッケージ、見たでしょ」

「うん」

「あそこに大橋くんのメッセージはなかったでしょ」

そう、由夢が渡してくれたチョコレートの箱には、由夢と中川くん、そして徹のメッセージしかなかった。

大橋くんからのメッセージは、なかった。

「あれさ」

由夢が戸惑っている私をのぞきこみ、そっと前髪を整えてくれる。

「大橋くんから言われたの。俺は自分でお見舞いに行って届けるから、ここには書かないでおくって」

「そうだったの…………」

いつの日か、2人で食べた星の形をしたアイス。

大橋くんがポジション争いに敗れて、途方に暮れていた日を思いだす。

“頑張れ”

手元の星の形をしたアイスクリームを見つめる。

大橋くんが今、このアイスをプレゼントしてくれたということは、
あの時私がアイスに込めた気持ちは、きっと大橋くんに届いたんだろう。

“早く元気になってほしい”

その気持ちがこのアイスから伝わってくる。

星型のアイスを見つけるまで、大橋くんは何箱買ったのだろう。

練習で疲れ果てているはずなのに。

こんなことをしている余裕なんてないはずなのに。

私なんかのためにここまでしなくていいのに。