『クソ!どきやがれ。』

正明の下で男がもがく。

その背後で、もう一人の男が、ヘルメットを降りかざした。


『ガンッ!!』

思いきり降り下ろしたヘルメットが、正明の後頭部を打った。

『うっ…』

意識が遠のき、その体がゆっくり男に重なる。

そこへ、更にヘルメットが打ち付けられた。

『ガッ!ガッ!ガッ!!』

『たっちゃん!もうやめて。死んじゃうよ。』

怯えた声で女が止めようとする。

下の男は、正明の血で真っ赤であった。

何とか抜け出そうとする男。

正明がその男の耳を掴み、ゆっくり上体を起こす。

その顔面へ、最後の一降りが襲った。

『ガンッ!!』

『ぎゃー!!』

下にいた男が悲鳴を上げる。

横へ吹っ飛んだ正明の手には、ピアスと男の耳が握られていた。



『パパッ!!』

開いたコンビニのドアの外に、紗夜が立っていた。


女と血だらけのヘルメットを持った男が振り向き、目が合った。


『くっそー!このヤロウ。』

耳を押さえ、キレた男が正明の顔面を踏みつける。

『ガシッ!ガシッ!』

異変に気付き、店員が表に出て来た。

『ヤベェ、行くぜ!』

慌ててバイクへまたがる。

『バカヤロー!早く乗れ!』

放心状態の女が、我に返り後ろにまたがる。

けたたましい音を響かせて、二台のバイクは、夜の街へ逃げて行った。



紗夜がゆっくり近づく。

『パ…パ…』

『さ……サ…ャ…』

『パパ!』

仰向けの正明の顔は悲惨なものであった。

『サ…ヤ。……』

何かを呟く正明へ、紗夜は耳を近づけた。

『サ…ヤ、お前は何も…何も見なかったんだ。い…いいね。何も。な…に…も…』

それっきり彼の目は、二度と開くことはなかった。

『ぃゃ…。…いヤァー!!パパ!パパ!パパァ!!』

少女の悲しい叫びが響く。

握り締めた小さな手のひらの中で、ロウソクが粉々になる。


その震える黒髪に、初雪がひらひらと舞い降りていった。