イノセント・ハンド

暫くの沈黙の後、富士本が口を開いた。


『これは、今となっては、もう確かめられない推測だが…』

二人が、富士本を見る。

『偽装犯と真犯人が生きていて都合の悪い人物。さらに、全員を知っていて、どこにいるかも掴んでいた人物。そして、君を思い通りに異動させられる人物。』

紗夜の目が大きく開いた。

震える唇が、その名をつぶやく。


『風井…竜馬。』


咲の体が、またブルっと小さく震えた。

『彼の最後の言葉…長かったな…は、そういう意味…ね。』


『敷かれたレールの上で、彼のストレスは、私達では計り知れないものだったんだろう。警察に対する衝動的な若さの反発。きっとそれが、17年前の事件を起こしたんだ。』

『彼なりに、ずっと罪悪感とも戦っていたみたいよ。看護師の話しでは、最後は、あなたに謝ってたって…。』


決して表には出ることのない真相。

それが、明かされたのであった。

警視総監への道。

それが近づいた頃、危険な不安要素を消す為に、企てた計画。

全て、風井竜馬が描いたシナリオだったのである。


『ただ一つ、まだ分からないのよね~。』

『そうだな。』

『風井は、どうやって紗夜の…いえ、あの少女の存在を知ったのか?なのよね~。』


涙を拭いた紗夜が、目を上げた。

『多分、あの時……。アメリカへ就任して半年程経った頃、日本の警察幹部たちの訪問がありました。』

『サキ!』

富士本が指示する。

そばにあるパソコンを叩く咲。


『ちょっと待ってよ~。えっと…これね。』

画面に、当時の訪問記録が表示された。

『いた!課長、ここ…と、ここよ。』

咲が指差す写真の真ん中に総監、その少し後ろに竜馬が映っていた。

『実は、君のアメリカ行きを、後押ししてくれたのも、警視総監なんだ。』

『…そうなんですか。』

『あなたのことも、ずっと監視してたはず。警察官になった時は、さすがに焦ったでしょうね。きっと、心理捜査のあなたの評判を聞いて、この国にいることに、危険を感じたのね。どこまで腹黒いの、全く!』

『私は会釈した程度でしたから、気がつきませんでした。』

『心は読めなかったの?』

『サキさん。いつも読んでる訳じゃありません。プライバシー侵害ですし、知りたくないものも多いから…。』

『そりゃ、そうよね。』

そう言いながらも、咲は少しホッとした。