イノセント・ハンド

右手に棲む悲しい悪魔。

自ら銃弾で、葬り去ったと思っていたもの。

『あの少女は、君の手から解放され、最後の復讐をやり遂げたんだよ。』

紗夜が目を閉じる。

『大丈夫か?紗夜?』

気遣う富士本。

『はい。私は大丈夫です。では…、彼が言った最後の言葉は…』

『きっと、あの悪魔に語り掛けたってことね。』

咲の体が、ゾクッと震えた。


『この言葉が意味することを考える前に、君の供述で2つ確認させてくれないか。』

無言でうなづく紗夜。

『君は、一度帰国し、獄中の山岸と面会してるね?』

『はい。アメリカで私宛てに手紙が届き、昔の警官殺しについて、どうしても伝えたいことがあるとのことでした。』

『彼が、君のお父さん…姫城警部を殺害した罪で服役中だということは…』

『知っていました。警察のデータベースで、三人のことは調べていましたので。』

『犯人の顔は…覚えていたのかね?』

『いえ、顔までは…。でも、会って、彼は犯人ではないことが分かりました。』

咲も富士本も、複雑な面持ちで、紗夜を見つめる。

『それに、彼は、手紙なんか書いていないと言っていました。』

『彼と話を?』

咲が首をかしげる。

『会話記録はないんだけど…』

『それも、闇に消されたということだな。』

富士本の頭の中で、疑問が明かされ様としていた。

『それから、君は希望してここへ来た訳ではないと言ってるね?』

『はい。突然の異動通告でしたので、驚きました。でも、赴任先が富士本さんのところと分かって、喜んで受けました。』

『なるほど…な。』

富士本は、咲と二人で、この事件の真相を探っていたのである。

『紗夜、君は、心の奥にあった復讐心が、無意識にあの少女を動かし、この一連の事件を起こしたと思っている様だが…』

あれからずっと、紗夜を苦しめている罪悪感であった。

『どうやらそれは間違いだ。やっぱり君も少女も、何も企んではいなかったんだよ。』

『どうして、そんなことが?私は犯人達をずっと憎んでいました。それは事実です。みんな私が殺してしまったんです!』

思いもかけない富士本の言葉に、紗夜が身を乗り出す。

目には涙が浮かんでいた。

『サキ。』

富士本が咲へ目をやる。