イノセント・ハンド

~会議室~


富士本、咲、紗夜の3人が集まっていた。


『紗夜、一連の調書は読ませてもらったよ。“全て”をね。』

10日程で退院した彼女を待っていたのは、説明のできない取り調べの毎日であった。

彼女は、ありのままの真実を述べた。

結果、非日常的な部分は公式記録には載らず、現実的に表れた事実のみで、事件は完結されたのである。


『紗夜、今回の事件で、私とサキは、納得いかない点があるんだよ。』

ゆっくりと、富士本が話し始める。


『主犯であった風井竜馬が、あの直後、病室の窓から投身自殺したことは、聞いてるね?』

『はい…。』

『担当の看護師が、ドア越しに、彼が最期につぶやいた言葉を聞いていたんだ。』

富士本の目を見る紗夜。

『彼は、何と?』


『長かったな…と言ったそうだ。』

サキが、新聞の記事を広げて見せる。

『罪の意識から投身自殺。ってことで片付けられているんだけど、あり得ないのよね。』

紗夜も、それには気付いていた。

『彼は重傷で、自力で動くことなんて、不可能だったはずなの。』

『つまり…』

富士本の言葉を、紗夜の目が止めた。

『あの子が、あそこにいたってことですね。』

動かない右手に目を落とす紗夜。