マンションへ帰った二人。

元々看護婦であった智代は、慌てることもなく、夫の傷を消毒し、処置を施した。

『大丈夫だと思うけど、念のため明日、病院へ行きましょう。』

『ああ。そうするよ。やっぱり夜はビートを別の部屋で檻に入れておこう。あの子にもし噛み付いたりしたら大変だからね。』

『そうね、可愛そうだけど、仕方ないわね。』


「大丈夫よ」と言いたいところだが、元々犬が得意ではない夫の気持ちを考えると、今は従うしかなかった。


こうしてその夜、ビートは別の部屋に監禁され、紗夜が入らない様に、部屋には鍵が掛けられた。



翌朝。

朝ごはんを持って行った智代の前に、冷たくなったビートが横たわっていたのである。



<火葬場>

智代はだいぶ落ち着きを取り戻していた。

『大変申し訳ございませんでした。何かの手違いで、火力が狂った様でございます。』

主任らしい男が、必死で詫びている。

『あの・・・失礼ですが・・・』

担当の係員が小さな声で正明に話しかけた。

『何ですか?』

『あの犬は、交通事故か何かで?』

『何ですって?そんな酷い死に方なんてしてませんっ!!』

智代の逆鱗に触れた。

『智代!落ち着け。』

正明が制止する。

『何で・・・そんなことを?』

『あの・・・実はここの炉は、隣の炉と繋がっていて、そちらは正常にお骨が残っていたのです。時々あるのですが、事故で骨が砕けたご遺体の場合、知らずに火葬しますと、あの様な状態になることが・・・』

『だから、事故なんかじゃないって言ってるでしょ!!それに、隣と繋がってるなんて聞いてないわ!もう、ここは信用できない!』

『智代、分かったから、もう静かにしてくれ。とにかく、事故ではありません。済んでしまったことは仕方ない。残った骨を頂いて今日は帰ります。』



こうして、ビートの火葬は終わったのである。