イノセント・ハンド

華やかなファンファーレが鳴り響き、イベントが始まった。

天井の大きなクス玉が割れ、中からゆっくり降り立つラブ。

クス玉の上には、彼女の右腕であるティークがいた。

ゆっくりとライフルを構える。


ライトのせいで、下から彼の姿は見えない。

テーマソングを歌うラブ。

歌のエンディングで、各界の著名人達が、レッドカーペットの上を進む。

その最後に、警視総監 風井英正が現れた。

20年間に渡り、この国の治安の頂点にいる偉人である。

会場中が大きな拍手で包まれる。

その拍手には、もう一つの理由があった。

総監の隣には、手を引いてエスコートする美女がいたのである。

純白のドレスに身を包んだ紗夜。

実際のところ、エスコートしているのは、総監の方ではあったが・・・。


『なるほどね。でも、なんて危険なことを。』

ステージでラブがつぶやく。

紗夜は、標的である総監の傍にいて、彼へ向けられる『殺意』を察知するつもりであった。

同時にそれは、自分が撃たれる危険をもはらんでいる。

大観衆の中、ステージへと到着した一行。

祝辞が続く。

会場中の『気』に神経を集中する紗夜。


『では、最後に祝辞へのお礼を込め、風井警視総監様より、ご挨拶をお願いします。』

司会が総監を導く。

大きな拍手の後、静まり返る場内。

警備員たちの緊張も高まる。


『え~念のため、最初に申し上げておくが、隣の美女は、コレではない。』

総監が小指を立てる。

緊張した場内に大きな笑いと拍手が響く。

このいらぬ冗談が、紗夜の誤算であった。

静まり返った場内であれば、『気』も読み取り易いと考えていたのである。

必死で集中しながらも、焦る紗夜。

『あのエロジジィ!』

『ジュン!!』

思わず口走った宮本を咲がにらむ。


思いの他にウケた歓声に、総監が得意気に手を振る。

集中する紗夜。

冷や汗が頬を伝う。

その時、一閃の突き刺さる様な感情が、紗夜の胸を貫いた。

紗夜の意識が、斜め前方の警官へ向けられる。

既に銃口は向けられていた。

(クッ!)

『総監っ!!』

叫んだ紗夜が、手を振る風井に抱きつく。

『ティーク!』

それと同時にラブが合図する。

『バシュ!!』

『ウッ!』

『パン、パン!!』

場内が騒然となった。

拳銃を放って倒れた男を、周りの警官が一斉に取り押さえる。

ステージでは、紗夜と共に倒れたままの総監を警備が集まり、壁を作る。