イノセント・ハンド

何とも言えない空気が満ちた。

『あ~やだやだ!真冬のオカルトってとこか。』

宮本の体が、ブルっと震えた。

『よく見ると、手のひらの手相までくっきりとついてる。どれだけの力なんだこりゃ。』

宮本の鋭い観察力に、豊川が思わず手首に顔を近づけかけて、白々しくやめる。

『よ、良く気が付きましたね。この何本かある線は、ご推察の通りと思います。』

その時、ドアが開き、女性の補導員が顔をだした。

『とりあえず私は、あの娘を連れて行きます。ここでは何なので。』

『あぁ、一応病院へでも連れて行ったほうがいいな。いいですよね?刑事さん。』

『はい。恐らくあの娘からは何も聴けないと思いますし、状況は駅の監視カメラの映像で確認できますので。』

紗夜が盲目であることに、今頃気付いた豊川であった。

珍しく思いながら、補導員に手で合図する。

『では、失礼します。』

締めかけたドアの向こう。

その隙間から、女の子が紗夜を見ていた。

その気配に気づく紗夜。


(あ・り・が・と・う)


(えっ?)


紗夜の頭に微かに響いた声を残し、ドアは閉められた。


『じゃあ、一応、後でカメラのデータと、この…写真を署に送っておいてください。』

宮本は、あの顔が頭に焼き付いて、一刻も早くこの場を離れたかった。

『誰も助けようとはしなかったの?』

『紗夜さん。そりゃ無理だと思いますよ、危険ですからね。それに、隣で誰か倒れても、思わず避けてしまう街ですからね。』

紗夜が豊川の心の渦を『感じた』。

『いや…。女は最初助けを求め、回りも手を差しのべたらしいんだが…』

『はぁ?自殺しながら助けを?いざとなって…』

『どうだったの?』

宮本を制する紗夜。

『それが、女は何かに怯える様にして、後ろへ。そして…『来るな』とか『誰だ』とか叫んだとのことです。』


沈黙。


『いずれにしても…』

紗夜が切り開く。

『小さな女の子を連れ、その目の前で、一人で自殺なんておかしいわ。良く調べてみましょ。』

こうして『最初の謎』が、お持ち帰りになったのである。


駅を出たところで、宮本の携帯が鳴った。

『はい。宮本です。課長~参りましたよ。たった今………えっ?……えぇ?そんな!分かりました。直行します。』

『ジュンさん。どうしたの?』

『警視庁150周年の予告イベント会場で、爆発があったと…。』