イノセント・ハンド

信号待ちの宮本の意識は、助手席の紗夜に傾いていた。

(可愛い・・・んだけどな。こんなに無表情で、おまけにサングラスじゃねぇ・・・)

そう思った時、紗夜がサングラスを外した。

(うわ!けっこうヤバイじゃん。)

『少しは好みに合いましたでしょうか?ジュンさん。』

『えっ?あ・・・いや、ど、どうして私の思っていることが?』

『ジュンさんは、心理捜査官をご存知ですか?』

『は、はぁ・・・。外国では、あるらしいですね。人の言動から心理を分析し、捜査をサポートする任務ってのが。でも実際は、映画の中だけかと思ってました。』

正直なところであった。

『あなたの息遣いや、しぐさ。そう・・・、ブレーキとアクセルの微妙なぎこち無さなどから、男性特有の心理が読み取れました。』

『ええっ!?そんな、僕はただ・・・。』

『私には、心の声が聞こえる時があるの。アメリカでは、そうやって多くの事件を解決してきたわ。』

紗夜は、自ら警察官への道を望み、富士本はそれに協力した。

目覚めた能力と、類まれな才能により、彼女は優秀な成績で、警察学校を卒業し、心理捜査の盛んなアメリカへ渡ったのであった。

『そんなことができたら、すごく便利ですよね。羨ましいなぁ。』

『そんな・・・。そんなにいいものではありません。聞きたくもない声もあるから・・・。』

気まずい雰囲気に焦る宮本。

『ごめんなさい!紗夜さんの気も知らずに。』

『いいえ、気にしなくていいですわ。ジュンさんは、優しい方ですね。』

『そ、そんなことないです!!』

思いっきり照れる宮本。

『そんなことより、横からの車の右折が急ぎ足になったから、そろそろ青になるんじゃないですか?ちゃんと前を向いて運転してくださいね。』

既に前方の信号は青になっていた。

『は!はい。失礼しました!!』


そうして、二人は新宿駅に到着した。