~警視庁~

このところ大きな事件もなく、警視庁では、記念式典を控え、連日企画会議が繰り返されていた。

今年は警視庁創立150周年にあたる年。

新東京ドームを舞台に、大掛かりな記念式典が計画されていたのである。

『いよいよあと1週間ですね、風井総監。』

『ええ、総理。これが私の最後の大仕事になります。来年は引退して、代を譲ろうかと。』

警視総監の風井英正(かざい ひでまさ)が、首相の鷲崎(わしざき)に笑みを返す。

警視庁始まって以来の、最長期在籍の警視総監である。

それ故に、絶対的な権力を持っていた。

首相の鷲崎は、正直なところ風井のことを、気に入ってはいなかった。

影の噂も幾度かあったが、長年の風格と実績は、紛れもない業績として認めざるを得なかった。


『息子さんも警視としてご活躍中とか。羨ましいものです。議会があって、本日のセレモニーには出席できないが、盛大に催されることを祈っていますよ。』

『色々とご配慮を、感謝しています。総理。では、当日は楽しんで頂ける催しをご用意しますので、ご期待ください。』

『いやいや、私なんぞ気になさらずに、国民の為に、そして命を懸けてこの国を守っている全警察官の為に、素晴らしい式典にしてください。』

笑って握手で別れる二人。

この2時間後、警視庁に大きな衝撃が走ることを、まだ知らない。