涼ちゃんと一緒に帰るなんて、絶対無理だ。
注目されて、嫉妬されて、校舎裏とかに呼び出されるのがオチだ。
いろんな誤解を全校生徒にされる前に帰ってしまおう。
最後のホームルームのチャイムが鳴ると同時に、私はものすごい勢いで教室を飛び出した。
長い廊下を早歩きで歩いていく。
「美鈴」
早歩きで歩く私のそばで、私の名前を呼ぶ声がする。
横を見ると、涼ちゃんがいた。
私と同じ速度で、真顔でこちらを凝視しながら並んで歩いている。
「りょっ……」
「一緒に帰ろって言ったのに」
「む、無理だよ」
私は他人のふりをして廊下を駆ける。
それなのに、その間近で同じく廊下を駆ける足音がする。
「りょっ、涼ちゃん」
涼ちゃんが通った道に、悲鳴が残る。
それを背中で感じながら、私は速度を上げていく。
階段をものすごい勢いで駆け下りる。
校舎内を縦横無尽に駆け回る。
自分でもどこに向かっているのかわからない。
どこを走っても誰かに注目されている気がするし、どこに逃げても、涼ちゃんは追いかけてくる気がする。
私はいつの間にか人気のない部室棟の裏までやってきた。
はあ、はあと息は激しく切れていた。
後ろからやってきた涼ちゃんは、涼しい顔をして、私の目の前に立つ。
「な、なんでそんな余裕なの?」
「美鈴の全速力は、俺の普通だからな」
膝に両手をついてまだ息を切らしている私のそばにしゃがんで、涼ちゃんは私の顔を覗き込んだ。
「相変わらず、体力ないな、美鈴は」
懐かしいその目とその声を間近に受けて、我慢していたものがあふれ出そうになる。
「なんで……」
「ん?」
「なんで、ここにいるの?」
「転校、したから」
「そんなのわかってるよ。どうして転校したの? どうしてこの学校なの?
なんで同じクラスなの?」
「美鈴のそばに、いたいから」
そう言った涼ちゃんに向かって、桜吹雪が美しく舞い上がる。
まるでその瞬間を見計らったかのように。
本当に、よくできた植物だ。
「モデルの仕事、頑張ってるじゃん」
__あっ……
桜の花びらが、あの夏の日の思い出を連れてくる。


