私は少々こぼれた涙を誤魔化すように、涼ちゃんに聞いた。
「涼ちゃん、何か欲しいものある? 私買ってくるよ」
「何もいらないよ。何もいらないから、そばにいて」
そう言った涼ちゃんの目には、熱っぽさがあった。
熱いまなざしが、私を制止する。
「う、うん」
立ち上がりかけた膝を地面にぺたりと戻すと、涼ちゃんは安心したような表情をした。
そしてそのまま、目を閉じた。
カチ、カチ、カチと時計の針が進む音がする。
その音を聞きながら、私は涼ちゃんの穏やかな寝顔にうっとりと見とれる。
だけど、時計の秒針が半周もしないうちに、涼ちゃんはパッと目を開けた。
「……なにぼうっとしてんの?」
「へ?」
「ここはさあ、手を握るとか……じゃない?」
「え?」
「あ、これって、セクハラ?」
ぶんぶん首を横に振ってから、私は正座しなおして、涼ちゃんの手を両手でそっと握った。
やっぱり、熱い。
こんなに熱があるのに、私のことを慰めてくれたんだ。
笑顔にしてくれたんだ。
「涼ちゃんって、すごい」
「今ほめた?」
「え? あ、うん」
「そういう時は……」
そう言いながら、涼ちゃんは握った私の手を、そっとおでこに持っていく。
「……こうするんだろ?」
私はその手を、涼ちゃんのおでこの上でそっと動かした。
優しく、優しく、熱のあるおでこを撫でた。
その瞬間、涼ちゃんの口から「はあ」と甘くとろけるような息が漏れる。
「冷たくて気持ちいい」
そう言って、そのまま涼ちゃんは目を閉じた。
そして、何も言わなくなった。
先ほどよりも安定した呼吸が聞こえてくる。
その規則正しい息遣いに誘われるように、私は涼ちゃんの体に頭を寄り添わせた。
そしてその呼吸音を聞きながら、眠りに落ちた。