ゆるふわな君の好きなひと


 由利くんが、知らない女の子と一緒にいるところはあまり見たくない。

 でも、その子と話すためにわたしとの約束が後回しにされたのだとしたら、腹が立つし、悲しいし、納得いかないって思う。

 複雑なため息を吐いたとき、体育館と校舎のあいだの通路のほうから話し声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってくださいよー」

「もう話は終わったじゃん」

 ドキッとした。

 女の子の甘えるような声のあとに、由利くんの声が聞こえてきたから。


「まだ終わってないですよ。そんな簡単に終わらせないでください。付き合えないかどうかは、せめて、あたしと一回くらいデートしてから決めてくださいよ」

「しない……」

「じゃぁ、連絡先だけでも教えてください」

「しつこいって」

「だってあたし、本気ですから」

「離して」

 体育館の陰からそっと覗くと、由利くんが一年の女子に腕をつかまれていた。


「由利先輩がライン交換してくれたら離します」

 由利くんのことを強気な目で見上げている女子は、眞部くんが言っていたとおり、遠目に見ても可愛い子だった。

 制服のズボンのポケットに手を入れて立っている由利くんは、腕につかまる彼女のことを面倒くさそうに見下ろしている。