「んー……」

「それ、いいってこと? あたし、見たい映画あるんだ」

 どう考えたって気のない返事だったのに、由利くんの腕を引っ張ってぴょんっと飛び跳ねた彼女の声は、嬉しそうに弾んでいる。

 まさか、行かないよね……? 

 他人にそこまで関心がないくせに、由利くんは人からの誘いに適当に返事をしてしまうことがあるから心配だ。


「今週の土曜日、暇? 由利が部活行かないなら、学校終わったあとでもいいし」

 彼女が、グイグイと由利くんに迫る声が聞こえてくる。

 焦りと嫉妬で握りしめた手のひらが湿って、ドクドクと心音が速くなる。


「んー……」

 相変わらず気のない返事をする由利くんは、どんな表情を浮かべているんだろう。

 気になって視線をあげると、岡崎さんに腕をつかまれた由利くんがちょうどわたしのそばを通り過ぎるところだった。

 わたしに気付いた由利くんが、ダークブラウンの瞳をわずかに目を見開く。

「あ……」と、思わず唇を震わせたわたしと違って、由利くんの唇は怒ったようにキュッと真横に結ばれている。

 お互いの気持ちをのせて空中で絡み合った視線。先にそらしたのは、由利くんだった。