「なんかさっき由利くんと話してるとき、ふたりともすごいピリピリしてなかった? あんなトゲトゲした空気の由利くん、初めて見たんだけど」
わたし達の様子を見ていた咲良は、心配して話しかけてきてくれたらしい。
遠目に見てもわかるくらいピリピリしてたなんて、よっぽどだ。
少しタレ目なせいか、いつもやる気なく眠そうに見える由利くん。
適当で何を考えているかよくわからないと思っていた由利くんの眼差しは、怒ればあんなにも鋭くなるのだ。
眞部くんには敵わないけど、心のどこかで由利くんに懐かれているという自惚れはあった。
どれだけ付き纏っても顔や名前を覚えてもらえない他の女子たちに比べて、自分は由利くんに近いところにいると思ってた。
でも、わたしは何にもわかっていなかった。
きっともう、謝ったって許してもらえない。
由利くんは、わたしの話を聞いてくれない。
完全に嫌われた——……。
キリキリと、お腹が痛かった。身体を起こしていられなくて、お腹を押さえてうずくまる。
「え、紬? どうしたの? 大丈夫?」
目を閉じたわたしの耳に、咲良の焦ったような声が届く。
お腹の痛みは、たぶん一時的なストレス性のもの。少しすれば治まると思う。
心配して声をかけてくれる咲良に「大丈夫」と答えたかったけど、キリキリする痛みは強くなるばかりで、顔をあげられない。
「紬、保健室行こう」
しばらくお腹を押さえていると、少しだけ痛みは治まった。
だけど、顔から血の気が引いたわたしを心配した咲良に、強制的に保健室に連れて行かれた。



