「名前、なんだっけ?」
長くてさらさらな黒髪を耳にかけて、いかにもいい女を醸し出しつつ櫻井みことは僕に名前を堂々と聞いてきた。
これは、普通の質問に聞こえるかもしれない。
けれど、今の季節は10月だ。
高校1年生、クラスでそれなりの仲良くなろうね的なオリエンテーションは数え切れないほどあった。
それにもかかわらず、名前を聞いてくるとは。
僕ってそんなに印象薄いと少しだけ自己嫌悪に陥る。
僕の気持ちは表情に出ていたのか、
「ごめん、ごめん。私、名前覚えるの苦手なんだよね。で、なあに?」
「寺本青だけど」
「そっか、よろしくね。」
なぜか一瞬驚いた気がしたのは僕の気のせいだろうか。