…ひょっとしたら、やり取りが聞こえていたのかもしれない。
……だとしたら恥ずかしいし、正直情けないな。なっちゃんのお友達だから見られたくなかったんだけど。
千歳くんがこちらを見ていたことで、教室内の女の子たちは自分と絶対に目が合ったと大騒ぎだった。
まさにアイドル並みだ。伝説的光景がまたひとつ増えた気がする。
「仙名千歳、杏花のこと見てたよね…?」
「…。いや、気のせいだよ」
横に居た瑠璃ちゃんも気付いていたようで、千歳くんの行動に対する正直な困惑が感じ取れて。
どうしてか考えてみても憶測しか生まれず、感情の着地点を見つけることは出来なかった。
もし校舎内で会ったら、いつも通り会釈をしよう。…よく話す間柄でもないから、考えたって仕方ない。
ただ
なっちゃんと千歳くんの友情が
これからもずっと続いていけばいいなと思いながら、わたしは前を向いたのだった――…。