稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 きっと、普段はお茶を自分で注ぐこともないはずだし、もしそういう場面があっても、エミリオとしてふるまっているはず。
 エミリーとしてお茶を注ぐことなんてないはずなのに、どうしてそんなに自然に美しい所作ができるのだろう。
 エミリーは本当に女性として完璧なんじゃない?うらやましいくらいだわ。
「ほら、見て、リリー」
 言われるままにカップの中をのぞくと、カップの中に花が咲いていた。
「花茶だ……」
 1回だけ見たことがある。お湯をそそぐと、花が開いていく特別なお茶。
「そうよ。かわいいでしょ……。んふっ、ああ、可愛くて可愛くて、この場所は可愛いものだけが存在していて、本当に好き……」
 エミリーがカップを持ち上げて、お茶の中で花開く可憐な花を見つめている。
「このお茶も、カップも、ケーキも、あづまやの白い柱も、丸い屋根も……今は薔薇が咲いていないけれどきっと薔薇が咲いたら夢のような世界ね。……なにより……」
 エミリーの目が、私のドレスの足元から徐々に視線を上げてゆっくりと見ている。
「なにより、かわいいリリーがいる。ああ、可愛いものに囲まれて、私、今……本当に幸せよ……」
「私も、幸せ」
 幸福感で胸がポカポカしてる。

「うふふ、おいしい物が食べられて幸せ?」
「ち、違うわ、エミリーとこうしていられて幸せ!もちろんおいしい物が食べられるのも幸せだけど……お友達がいなかったから。こんなふうにお茶会ができるなんて幸せ」
 エミリーが笑っている。
「ずっと、この時間が続くといいわね……」
 エミリーの呟きには曖昧に笑って何も答えなかった。
 だって、きっとエミリーだって分かっている。
 ずっと続かないって。
 舞踏会は終わりの時間がくるし。
 次の舞踏会まで会えないし。
 そうして……今は定期的に開催されている月に1度の舞踏会だって、いつ開催されなくなるか分からない。