稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 ドレスを着ることもできないエミリーの顔が浮かんだ。
 せっかくドレスを着られる立場なのに、それでも自分の好きなドレスを着ることができないこともあるの?
「それは、貴方のこと?私のこと?」
「え?」
「……ふっ。そうね。そうだわね。好きなドレスを着ればいいのよね……。殿下だって、ドレスで女性を選ぶような馬鹿ではないはずよね……」
 そうですね。もし、ドレスで女性を選ぶような方が後の陛下、ドレスだけで選ばれた女性が後の王妃殿下……っていう国に済むのは不安があります。
 まぁ、さすがにあまり問題があればお父様が何か口を出すでしょうが。公爵家にはそれくらいの力はある。
 とはいえ、お父様もお兄様も、皇太子殿下については本当に何も話をなさらないけれど……。問題がある方なのか、それとも問題がない方なのかということすら聞いたことがない。
「吹っ切れましたわ。貴方のおかげで、ありがとう」
 なぜかローレル様にお礼を言われた。
「ああ、でも、貴方は、お母様に言われたとか、ご自分の趣味とかだったとしても、そのドレスでは貴方の魅力が全然引き出せておりませんわよ」
 お母様には10歳を過ぎてからは何も言ってもらえない。亡くなってしまったから。想い出の中の母の言葉は10歳までの私にむけられたものだ。
 もし、今の私のドレスを選ぶのだとしたら、どのようなドレスを選んでくださったのだろう。
 仕立屋のように「お嬢様は何でもお似合いになります」なんて言わなかっただろう。
 お父様のように「これは胸が出すぎている、ダメだダメだ」とも言わなかったかもしれない。
 お兄様のように「母上はリリーにはこういうのが似合うと言っていたじゃないか」と言うこともないだろう。
 ふと、お母様が今生きていたら、ローレル様のように、魅力を引き出せないと言ったのではないだろうか。