稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

「分かるわ。うん、お菓子、一口でいいから食べたいって思うもの。本当はたくさん食べたくても、でも一口でもとっても幸せな気持ちになれるわよね。……ありがとう。かわいいものが見たくなったら、このハンカチを見るわ」

「ごめんね、リリーのRが刺繍してあるの。今度はエミリーのEの文字を入れたハンカチを……いいえ、リボンがいいかしら?またちょっとしたかわいいものをプレゼントするわ」
「嬉しいけど、悪いわ。ああ、私も何かプレゼントを……」
 そこまで話をしていたところで、人の声がすぐ近くまで来た。大きな声でおしゃべるする女性の3人組のようだ。
「楽しみにしてるよ、来月」
 あっという間に、エミリーの言葉遣いも仕草も男の人のように戻って、あづまやから姿を消す。
 それと入れ替わるようにして、華やかなオレンジ色のドレス姿の女性3人組が現れた。
 おそろいで揃えた?それとも偶然重なったのかしら?
 同じ年くらいの3人の女の子。
「あら、人の気配がすると思って期待したのに殿下ではありませんでしたのね」
 殿下?
「本当、どこに殿下はいらっしゃるのかしら。ねぇ、貴方、見なかった?」
 唐突に3人のうちの一番背の高くて胸の大きな女性に尋ねられた。
 胸元の谷間をしっかりと見せるデザインのオレンジのドレスは、大人びていてフリルは裾に少しあしらわれているだけだ。
 うん、こういうのが私くらいの年齢の定番デザインだとすると、確かに私のフリルがこてこてについたドレスは子供っぽいと思われても仕方がないわよね。
「殿下ですか?少し前から私はここにいますが、誰も見ておりませんわ」
 エミリーのことは言わない方がいいだろうと、黙っていることにした。
「そう、おかしいわね。確かに今日は来ていると言う話なのに……」
 背の高い女性がはぁと小さくため息をつく。