えっ、この声は。
あたしが聞き間違えるわけない。
現に今、片耳についたワイヤレスイヤホンから流れている歌を歌っている本人だ。
「うそ、なんで……」
ちょうどお客さんがいないからいいものの、こんな小さな商店街だからって気軽に来てたらあっという間に騒ぎになってしまう。
なるくん、あなたはそれをわかってるの?
そう思いながらも、推しを目の前にして嬉しくないわけがない。
「前回は翠生が接客したんでしょう?まさか翠生の大好きな人だなんてね」
「チーズケーキおいしかったです。ショートケーキまで頂いてしまって……」
「いいのよぉ!翠生の面倒見てもらっちゃったし気にしないで」
お母さんが一段とにこやかに喋ってる。
あの日、あたしがなるくんの前で気絶した時、運んでくれたのは……彼しかいないか。
記憶には全然ないのに、ドキドキしてくる。
「翠生ちゃんこれからお出かけ?」