「いや、あの、これは、その……」



なんにも言い訳が出てこない。


汗がだらだらと出てくる。春なのに。ギリギリ4月なのに。



「まあまあ、先生!許してやってよ。俺がみっちり叱っておくからさ」


「……はあ、今回は一ノ瀬に免じて見逃してやろう。ちゃんと板書とっておくんだぞ」



田中先生は渋々といった様子で、教卓へと戻っていった。


こっそりため息をついた。よかったぁ。



「なにため息ついてるんだよ、枝野」


「ごめ〜ん、かずみん!ありがとう。助かったよ〜」



隣の席の一ノ瀬 和海(かずみ)


かずみん呼びなのは、推しアイドルと同じ苗字を呼び捨てにするのは気が引けるから。


高校2年生に進級して、早1ヶ月。かずみんとは出席番号順で席が隣になってよく話すようになり、クソ怖い先生が「一ノ瀬に免じて」と言うくらい学力優秀な男の子だ。


バスケ部に入っていて、文武両道のかずみんは人気者でモテるらしい。詳しくは知らないけど。



「熱心に何か書いてると思ったら板書じゃないのかよ。見せて」


「いいけど……」