いま起こったことをありのまま話します。


あたしの好きな推し、アイドルの一ノ瀬鳴海くんが活動休止というニュースにショックを受けて帰宅した。


自宅であるケーキ屋さんの店番を頼まれて、それを全うしていたら、長身のお客さんがやってきた。



サングラスから少しだけ見えた瞳が、なるくんに似ている。


その彼の口からーー。



「ねえ君、一ノ瀬鳴海のファン?」


「っ、……!」


「違うの?」


「いえ、違いません。大好きです」



圧倒されかけたけど、なるくんが好きなことははっきり言えた。


確信できないけど、やっぱりなるくんに似すぎてる。ほぼ本人だ。



「ふーん。隣の彼は、彼氏かなにか?」


「えっ!?いや、兄ですけど」


「そう。……じゃあ、また買いに来ます」



結局、帽子もサングラスもマスクも完全に取られることはなく、そのお客さんは帰っていった。