日直当番【完結】

 ここでふたりっきりにさせてみよう。私ったら気が利くでしょ。皆川に目配せをすると皆川はそれに気づいてにやりと笑った。ふたりきりの時間をつくるためにゆっくりゆっくり階段を下りる。キッチンへ向かい、戸棚の中のクッキーを取り出した。小さい袋に小分けされているので、勉強しながらでも手を汚さないで食べられる。さてさてふたりはどんな様子かな。楽しく談笑してるかな?

 足音をたてないように階段を上って私の部屋のドアに耳を当てる。耳をよく澄ましてみるけどさっぱり話し声が聞こえない。どうしたんだ?

 私がドアを開けると由理は勉強の続きをやっているし、皆川は挙動不審にきょろきょろしている。私が想像していたのと違うぞ。

「皆川」

「え、あ、ああ」

「あ、飲み物あった方がいいよね。麦茶持ってくるね~」

 ちゃんとやれよ、とまた目で訴えかける。皆川は分かってるよ、というように首をすくめた。まったく、せっかく私が気を利かせているっていうのにあの男は。

 キッチンの冷蔵庫の麦茶をコップに注いでいると誰かが階段を下りてくる足音がする。皆川だった。

「皆川!あんたバカじゃないの!?私がせっかくふたりっきりにさせてあげてるのに」

「だって俺、ふたりきりになった途端緊張しちゃって。だめだなんも話せねえよ」

「情けない男だな、あなんたは」

「おまえがいるときは大丈夫なんだけどなあ。おまえがいなきゃ俺だめだわ」

「はいはい。だったら私のこと大事にしてよね。『おまえ』なんて言わないでちょーだい」

「失礼しました神崎様!」

皆川は恭しく頭を下げる。

「ばっかじゃん」

 麦茶を注ぎ終え、後ろを振り向くと由理が呆然として階段の下に佇んでいた。