日直当番【完結】

「どうかされたんですか?」

「別に。反対の景色が見たかっただけだよ」

「外は真っ暗で何も見えませんよ」

「いいじゃんなんだって」

 しばしの沈黙のあと、進藤くんはおもむろに立ち上がり、私の目の前に来て吊革につかまった。

「な、なに」

「神崎さん、なんだか今日変ですよ?」

 どき。

「僕、神崎さんに何か悪いことをしたでしょうか」

「……進藤くんって、誰かと一緒に勉強することってあるの?」

「基本的に僕はひとりで勉強します。ああでも、今日は後輩が来て勉強を教えましたね。最近、勉強を教えてほしいと言ってよく来る子です」

「ふーん。熱心な女の子じゃん」

「ええ。…もしかして、一緒にいるところ見たんですか?」

「え?いやぁ?」

「なんで女の子だと分かったのかと思って。僕は後輩としか言ってないのに」

「!!」

「覗きとは趣味が悪いですね」

「なっ!ちがっ!たまたまタイミングが悪かっただけで覗きとかじゃ…!」

 自分でも顔が熱くなっていくの分かる。

「神崎さんは顔に出やすいですね」

 真顔で言いやがった。

「違うって言ってんじゃん」

 進藤くんは一瞬、見逃してしまいそうな小さな笑みをうっすらと浮かべた。

「っ!」

 何よこれ。胸がきゅうっと締め付けられる、この感じ。

 進藤くんは妙に納得したような面持ちで数回頷いた。