日直当番【完結】

 体育館にて、全校生徒向けの講演会が始まった。講演会は滞りなく進んでいる。ただひとつ、気になることがある。准教授のこの先生、小田原先生だっけ?なんか若く見えない?もっとアブラギッシュのハゲ親父が来るのかと思ってたんけど。

 今日の講演会は「人はなぜ学び、なぜ働くのか?」という、大人の階段を今まさに登りながら将来に不安を抱えて生きている私たちにぴったりなテーマだ。人間は進化していく過程で言語能力を身につけ、理性を得る代わりに本能を失ってしまった。しかし本能が壊れてしまったことによって人間は文化をつくった。文化を新しい世代に伝えて、文化を学んで生きていく力を身につける。そういうサイクル。

 「世界がもし100人の村だったら」っていうこれまた有名な話。200人のうちの8人は経済的に余裕がある裕福な人たちなんだ。世界はこんなに広いのに、満足な生活を送れない人たちの方が多い。しかも大学に進学した人は100人のうちたったの1人。たった1人だけなんだって。

「この広い世界で日本という恵まれた国に生まれたことは幸せなことなのだ。100人のうちの8人である私たちには、世界の恵まれない人たちのためにやらなくてはいけないことがある」

 小田原先生はだいたいそんなかんじのことを言った。それから先のことは覚えていない。